
HACCP
2025/11/18
食品工場で品質管理を担当していると、「微生物リスク」とは毎日向き合うことになりますよね。その中でも、腸管出血性大腸菌(EHEC)、特に O157 は、ほんのわずかな菌でも感染を引き起こす“非常に厄介な相手”です。
EHEC は、ベロ毒素(Shiga toxin)という強力な毒素を作り出すことで知られています。感染すると激しい腹痛や血便を伴う下痢を起こし、重症化すると溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症することもあります。
日本では、毎年3,000〜4,000件ほどの感染例が報告されており、特に夏場に多く見られます。
しかもこの菌、わずか10〜100個程度でも感染することがあるとされています。つまり、目に見えないレベルの汚染でも「アウト」。
だからこそ、工場では「ゼロに近づける努力」が欠かせません。
O157対策の基本は、厚生労働省が繰り返し発信している「食中毒予防の三原則」です。
1. つけない 2. 増やさない 3. やっつける
これを食品工場の現場に置き換えて、少しリアルに考えてみましょう。
O157は人の手指、原材料、器具、作業台、環境のどこからでも入り込む可能性があります。
ですからまず大事なのは、「つけない」こと。
ライン入場前、休憩後、トイレ後など、必ず石けん+流水で手洗いを。
厚労省のQ&Aでも「調理前の手洗い」は最重要項目とされています。
生肉と非加熱食品、加熱後食品を同じまな板やトングで扱うのはNG。
「原材料ゾーン」と「製品ゾーン」を明確に分け、道具の使い分けを徹底するだけでも、リスクは大幅に減ります。
拭き取り検査やATP測定などのモニタリングで、仕入れ時点からチェック体制を整えましょう。
「安全なものを受け入れる」こと自体が、最大の予防です。
ドアノブ・手すり・スイッチ・機械ハンドルなど、“よく触る場所”は重点的に除菌対象に。
アルコール系、次亜塩素酸系など、対象に応じた消毒液を選びましょう。
菌は「温かい」「湿った」「栄養がある」環境が大好き。
O157も例外ではなく、20~40℃前後で活発に増殖します。だから、温度管理と時間管理が命です。
調理後や殺菌後の製品は、すぐに冷却し、10〜15℃以下まで早く下げる。
温かいまま放置すれば、再び菌が増殖してしまいます。
冷気の循環を妨げない配置・整理整頓がポイント。庫内温度の定期チェックを習慣に。
在庫をためず、古いものから順に使う運用を。
滞留時間が長い=菌が増えるチャンス、という意識を共有しましょう。
清掃後の床や通路が濡れっぱなしだと、菌が繁殖しやすくなります。
「拭いたあと乾かす」までが衛生管理の一部です。
O157は熱に弱い菌です。厚生労働省によれば、中心温度75℃で1分間の加熱で死滅します。
調理・製造ラインでは、中心温度計を使ってしっかりチェックしましょう。加熱後の記録を残すことで、HACCP的にも信頼性が高まります。
器具・設備・調理台などは、洗浄→水洗→除菌という流れをルール化。塩素系消毒液や熱湯消毒を使うことで、表面の菌を確実に落とせます。
また、布巾や作業タオルは湿ったままにせず、次亜塩素酸ナトリウム系漂白剤などで定期的に除菌するのがポイント。
理論を知っていても、「現場で回る仕組み」に落とし込まなければ意味がありません。
そこでおすすめなのが、次のような実践ステップです。
原材料・調理・包装・出荷ゾーンを区分けし、人と物の動線を整理。
日次/週次で何を除菌するかを明文化し、担当を明確に。
対象別(手指/器具/環境表面)に使用する消毒手段を表形式でまとめる。
ATP測定や拭き取り検査を定期的に実施し、データで清潔度を“見える化”。
O157をテーマにした衛生講習を行い、「なぜ必要なのか」を伝える。
結果を記録・分析し、清掃頻度や方法を見直していく。
O157は確かに強力な病原菌ですが、正しい知識と日々の仕組みづくりで限りなくゼロに近づけることができます。
重要なのは、特別なことをするよりも、基本を毎日やり切ること。手洗い・温度管理・加熱・除菌──この4つを徹底するだけでも、リスクは劇的に下がります。
厚労省も強調しています。
「中心温度75℃で1分間の加熱」「生食を避ける」「手洗いを徹底する」
品質管理担当者の皆さんは、日々現場の安全を守る最前線にいます。
一つひとつの手洗い、一回の除菌、一度の温度チェックが、食中毒ゼロの未来につながります。
どうか今日も、“安全な一歩”を積み重ねていきましょう。
厚生労働省 食中毒(腸管出血性大腸菌)情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/daichoukin.html
厚労省 大量調理施設衛生管理マニュアル(温度管理基準)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000139151.pdf
厚労省 O157 Q&A
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177609.html
岡山市 消毒方法ガイド
https://www.city.okayama.jp/kurashi/0000008255.html
厚労省 大量調理施設衛生管理マニュアル(温度管理基準)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000139151.pdf
厚労省 食中毒対策ガイドライン(加熱条件)
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000365043.pdf
岡山市 消毒方法まとめ
https://www.city.okayama.jp/kurashi/0000008255.html